失敗しない防音
念入りに調査なんてしなくても、駅を降りたときにパッとひらめくイメージというもんがあるでしよ。
それってけっこう信じても大丈夫だと思うよ。
賃貸生活者のみに許されるメリットといえば、いつでも気軽に逃げられるということ。
しつこい前の男から逃げる。
誘惑してくる不良時代の悪友から逃げる。
アヤシイ隣人から逃げる。
借金から逃げる……というのは、ここでおすすめするわけにはいかないけど、一応逃げて、あとからゆっくり返していくというんなら仕方ないではないか……。
私は、両親がやたら厳しかったため、ひとり暮らしを始めたとたん、ありがちだがちょっとハメを外しすぎた。
ひとり暮らしにも慣れて冷静さを取り戻したときに、逃げることに決めた。
電話番号も変えて人間関係を整理し、まっとうな人生を送ろうではないかと思い立ったのだ。
ひとり暮らしを始めてしばらくの間は、寂しいからやたら人に電話番号を教えてしまう。
「いつでも、電話してね」と、まさに電話番号の大安売り。
その中には、「まずい、こんなヤッに電話番号を教えるんじやなかった」というのもある。
私はこの件に関して深〜く反省し、引っ越してからしばらくの間は「引っ越しのお知らせ」もせずに、ひっそりと地味に暮らした。
仕事と勉強に本気で励んでいた。
3ヵ月後、「私はもう大丈夫、しっかり者だ」と判断し(たった3ヵ月で何がわかるのだという批判もあるでしょうが……)、これからも大切にしたい人にだけお知らせをした。
賑やかで華々しいひとり暮らしをしているつもりだったけどそういう大切な友達なんて意外に少なく、楽しくやっていけそうな男友達なんて、さらにもっと少なく、「私の人間関係なんてこんなもんだったのね」と寂しかった。
でも、平気なのだ。
すっきりとまっとうに暮らしていれば、新しい友達なんてどんどんできる。
何度か引っ越しをする度にマメにお知らせする友達とは、絆が深くなっていく。
別れたい男から逃げたものの、男と共通の知り合いがいるためにひっそりと暮らさなくてはいけないなんていう人は多い。
でも、あんまり落ち込まないように。
ジメッとしないでポジティブに逃げれば、新しい彼だってできるに決まっている(根拠はないけど断定してしまう)。
万が一、前の彼が居場所を突き止めてきたら、新しい彼に追い払ってもらおうではないか。
当たり前だけど、逃げるということは、むやみにお知らせしてはいけない。
「それじゃ、あんまり寂しすぎる・・・」という人は、無理めの家賃に設定して楽しそうなバイトに励むとか、すごく古くて広い部屋を借りてリフォームに情熱をそそぐとか、話好きの大家さんが敷地内に住んでいて長屋状態になっているアパートに住むとか、いろいろテはあるものだ。
絶対に引っ越さなくてはいけない、という差し迫った事情があるのではなく、そろそろ引っ越しをと考えている皆さん。
あせってはダメ。
あせるとロクなことはないのだ。
私が昔住んでいたアパートは、部屋も立地も気に入っていたのだけど、とにかく隣のオバサンがイヤだった。
ガマンにガマンを重ねて暮らしていたけど、ある日突然ブチ切れて、「もうガマンできない。
明日にでも引っ越したい。
一日だってもう、ここには暮らせない」ということになった。
飛び込んだ不動産屋で、「とにかく隣の音が聞こえないマンション。
ガッシリしたヤツなら何でもいい」とわめき、それならと連れて行かれた1軒めの物件に、さっさと決めてしまった。
しかも興奮のあまり「物件の下見は昼間」という鉄則さえ忘れて、夜に一度見ただけ。
10階の部屋から東京タワーまで見える夜景の美しさにすっかりやられて、「あのオバサンから逃れ、このカッコイイ部屋でひとり静かに都会を生きるのよ」と、わけのわからないことを思ってしまったのだ。
細かいところを全然見ていなかったので、あとから何かと問題が生じた。
はっきりいって夜景以外のメリットなし(さらに夜景だって毎日見ていれば飽きる)。
しかも、冷静に考えると物件内容のわりに家賃が高い。
今思うと、あの物件はたぶん値切れたはずだ。
これが私の引っ越しビンボーの始まりだったような気がする。
毎日生活するところなのだから、デンと腰をすえて探さなくてはいけなかったのだ。
こういう場合、問題なのが更新料である。
引っ越そうかなと漠然と思っているうちに、更新の時期が近づいてきて、マズイと思ってあわてて探すのがよくない。
普通、1年くらい暮らしたところで「できれば引っ越したいな」などと思うはずだ。
そのときに、更新の時期をよく覚えておくようにしよう。
で、時々でいいから不動産屋や情報誌をチェックして、次に住みたい場所や部屋、家賃相場を何となく頭に入れておくだけで、失敗はかなり防げる。
もし、忙しくてヒマがなかったり忘れていたりして更新時期が来てしまったら、それでもあわてて探すよりは、腹をくくって更新料を払ってしまったほうがいいと思う。
たいてい、更新料って1ヵ月くらいでしよ。
あわてて引っ越してトラブつて、またまた引っ越しというより、「しばらくは引っ越さなくて大丈夫」という気に入った部屋を見つけたほうが、結果的に安上がりだと思う。
そして、ゆっくり探すにはシーズンオフを狙うのがイチバン、というわけなのだ。
若い男性より女の子のほうがいい部屋に住んで、いい家賃を払っているという実態があるんだそうだ。
あれこれ心配する親が、オートロックのマンションに住みなさいとか、1階は絶対ダメとか、環境のいいところなどと干渉し、結局家賃の援助をしてしまうかららしい。
ウチの親もそうだった。
ひとり暮らしを初めてするとき、あんまりうるさくて、「そんな理想的な物件はないよ」と、私はうんざりしながら不動産屋めぐりをしていた。
とある西新宿の不動産屋にいたとき、電話だかファックスだかがかかってきて、社員の人たちが「たった今、西新宿のライオンズマンションのワンルームが賃貸に出た」とか言っている。
すると私と話していた人が、「ラッキーですよ。
ライオンズなら親御さんも文句なしでしょう。
しかもここからすぐだから、今からパッと見に行けばいい。
家賃も安いです」と興奮していた。
分譲マンションなので家賃は持ち主によって多少のバラつきがあるらしく、それは確かに私の予算内の家賃だった。
で、歩いて見に行って不動産屋に戻り、親に電話をして了解を得た。
その間15分か20分くらい。
「さあ、手付けを払おう」とすると、すでに2件も手付けが入ってしまったと言う。
情報は一斉に流されたので、ほかの店舗で物件をまったく見ていない人が「ライオンズでこの家賃なら」ということで争うように手付けを払ったらしい。
早い者勝ちの世界のため、私は敗北したのだ。
物件が余っている今はこんな競争は減ったが、やっぱり1月から3月の混雑期は、内見しないで決める人がかなりいるらしい。
4月から上京する人が、1日だけ部屋探しに東京に出てくると、いちいち見ているヒマもなくよさそうな物件をビシバシ決めてしまう。
しっかり見ていい部屋を探そうとしている住み替え派の私たちに、勝ち目があるわけないのだ。
住み替えの人は、1月から3月は避けたほうが無難。
上京してきた人が落ち着くところに落ち着いたあと、4月からゆっくり探し始めるのがいい。
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